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【日本スターウッド・ホテル】ホテル運営の世界大手、震災後の独自の販売促進戦略
タグ: ホテル, 日本スターウッド・ホテル
企業が売上げを高め、顧客を拡大──その過程にはいつでも販売の現場を大切にする社長の知恵が生きている。本連載では、販売の現場から次々とユニークなプロモーションを生みだす成長企業の社長陣を紹介。その販促の考え方を取り組み方とともに紹介する。
取材・文 上妻英夫(KIプレス)

反転攻勢は“日本の安全性”を直接アピール
ホテル業界は厳しい局面を迎えている。成長率はマイナス傾向にあり、リーマンショック以降、需要は回復傾向が見られず、外資系ホテルの新規参入も増える中、日本のホテル市場は競争がますます激化している。
そうした中で起きた東日本大震災は、ホテル業界にどのような影響を及ぼしているのか。震災前と震災後、各ホテルの現場における販促活動はどのような変化が起きているのだろうか。
独自の戦略で販売促進、集客戦略を展開する日本スターウッド・ホテルの、現場からのアイデア出し、販促策を組み立てる手法を追いかけてみよう。
日本スターウッド・ホテルは、ホテル運営の世界大手であるスターウッドホテル&リゾート ワールドワイドInc.の日本法人である。スターウッドグループは100の国と地域に1025軒のホテルを展開し、総従業員14万5000名を擁する世界屈指のホテル会社だ。
スターウッドがグローバルに展開するホテルブランドは、「セントレジス」、「ラグジュアリー コレクション」、「W」、「ウェスティン」、「ル メリディアン」、「シェラトン」、「フォーポイント・バイ・シェラトン」、そして、最近誕生した「アロフト」と「エレメント」の九つのホテルブランドがある。
日本スターウッド・ホテルは、日本、韓国、グアムの三つの地区を統括している。日本国内ではシェラトン8軒、ウェスティン6軒、セントレジス1軒、合わせて15のホテル・リゾートを展開している。
営業・マーケティング本部長の金枝薫氏(日本・韓国・グアム地区統括)は、現状を次のように語る。「リーマンショック以降、海外、国内のホテルの需要は激変しています。特に、震災後の落ち込みは、今も続いています。海外からの利用者は4月で5割、5月で6割減りました。韓国、中国、香港、台湾からの利用者も含めて、同じように減っています。そうした中で、反転攻勢の第一歩として、日本のホテルの総支配人クラスが海外へ出向き、現地のビジネスパートナーに“安全であることのアピール”を直接、訴えるところから始めています」
直接、会って話し合うことで情報が正確に伝わり、理解を深めるという。いまできることは、自分たちで、日本の安全性をアピールすること。それにより情報が確実に伝わるのである。
リピート率の高い独自のSPG会員システム
同社は、日本国内でセントレジス、シェラトン、ウェスティンの三つのブランドを持つ。それぞれのブランドの特性とターゲットも違うので、各ホテル独自の戦略で展開している。
震災後、特に積極的に展開しているのはスターウッド・ホテルのスケールメリットを重視した販売促進である。震災前からも展開してきたことだが、震災後、特に力を入れて展開しているのが、リピート率の高い独自の「顧客ロイヤリティプログラム」のスターウッド プリファード ゲスト(Starwood Preferred Guest ®以下SPG )である。
このSPGに入会すると、スターウッドグループの全ネットワークを利用できる。SPGのメリットは、①会費・登録が無料、いつでも会員になれる。宿泊時はもとより、身近な国内ホテルの日常で利用しながら、レストランでの食事やラウンジでコーヒーを飲んだ時もポイントを貯めることができる。ウェブサイトからの会員登録も可能。
②対象ホテルが世界約100カ国、1000軒以上、世界規模でポイントを貯めることができるうえ、会員資格レベルごとのさまざまな特典を受けられる。傘下9ホテルブランドは世界各国に増え続け、同時にポイント獲得の機会も増える。
③貯まったポイントは好きな特典と簡単に交換できる。除外日なしで無料宿泊、航空券との交換やセレブリティに会えるチャンスなど、特典の種類は多彩だ。
例えば、オンラインオークションでスペシャルイベントの参加権を落札し、一生に一度の体験を手にできるプログラム「SPGモーメント」を選べば、有名シェフが専属料理人になってくれたり、セレブリティと会えたりと、日頃、経験できないイベントを手に入れることができる。「実は、リーマンショック以降でも、SPGの会員による売り上げは対前年比で伸びています。震災後も、5月ごろから伸びています。理由は、ロイヤリティーの高さと3ランク(プリファード、ゴールド、プラチナ)の会員制度が進化しているから。8月31日まで期間限定の3倍ポイントキャンペーンを実施していますが、入会と同時に大きなポイントが手に入るので、新たな会員の方々も含め、既存会員による利用が増えています」(シニアマネージャーの児玉由美子氏)。
SPG会員でなければ得られないメリットの多彩さが人気を集めているのだ。ホテル滞在、レストラン利用、施設利用をすれば、簡単にSPG会員にエントリーでき、ポイントを加算していけば、メリットもそれだけ増えるということである。
復興支援の願いを込めた“スターウィッシュ”七夕
同社は傘下のブランドホテルが参加できるように、テーマ性を持ったイベントを企画している。震災後、季節や夏の需要期を考えて、打ち出しているのが「“スターウィッシュ”七夕」(11年7月1日から月末まで)と題した、東日本大震災復興支援にもつながる七夕イベントである。「単体のホテルの独自イベントと国内11軒の同時開催の共通イベントを上手く組み合わせて展開しています。今回の七夕イベントは料飲部門の充実を考えて各ホテルが独自のスイーツを提案しています」(金枝薫氏)。
今回の七夕イベントの企画は、「ホテルを利用なさるお客さまが震災に対して何かできないか」「参加できるイベントは何か」という視点を盛り込んでいる。ホテルを訪れた誰もが参加できるのが特徴である。期間限定のスペシャルチャリティ・七夕スイーツを購入したお客に折り紙や短冊をプレゼントし、復興へのメッセージを添えて、ロビーに設置する笹に飾り付けてもらうという内容だ。
ホテルロビーの募金箱で集められた義援金とスイーツの売り上げの一部は日本赤十字社を通して被災地に届けられる。期間中、ロビーエリアのスタッフが鶴の折り方を説明し、海外からのお客にも参加できるように、英語での説明も設置する。季節感あふれる演出とともに、チャリティーメッセージを添えた“想い”を届けるイベントである。
イベント開始の6月30日、ウェスティンホテル東京のロビーで、報道向けの七夕イベントが披露された。同ホテルの近くに住む子ども5人と、浴衣姿のホテルスタッフの女性5人が、実際に、鶴の折り方を学びながら作成し、笹に飾っていた。
説明会の挨拶に立った総料理長の沼尻寿夫氏は「被災地に何かできないか、とシェフ全員で知恵を絞りました。七夕をイメージできるスイーツという事で、7種類を用意しました。ノンアルコール、涼しげなフルーツゼリーに仕上げました。参加ホテルでそれぞれのスイーツができ上がっていると思います」と話した。
国内11箇所のホテルで同時開催の「“スターウィッシュ”七夕」は復興の祈りと願いを届けるという意味から、義援金寄付とメッセージを笹に託すという、分かりやすくて参加しやすい夏のイベントである。「各ホテルの独自性とグループ共通の統一した仕掛けのバランスが、ホテルスタッフのモチベーションアップにもつながります。もちろん、ホテルに来ていただいた方にも参加していただけるように呼びかけていきます。被災地に対して何かできないか、という声を反映した催事です」(金枝氏)。
口コミ効果が大きい“バトラーサービス”
外資系ホテルが次々に登場しているが、“最後の大物”といわれる「セントレジス」が日本で初めて、「セントレジス ホテル 大阪」として、 昨年の10月1日に開業した。セントレジスホテルとして世界で20番目のホテルだ。「セント レジス ホテル 大阪」は宿泊料金の面でも高級ホテルだ。1904年セントレジスニューヨークがニューヨークの5番街に誕生した。富裕な発明家であり作家でもあったジョン・ジェイコブ・アスター4世がイメージした「貴族やその家族が自宅にいるような寛ぎを味わえるホテル」である。
そして、セントレジスブランドの特徴の一つがバトラーサービスである。このサービスはセントレジスの代名詞ともいえるサービスで、ホテルにおけるサービス水準の基準を変えたとも言われている。バトラーは英国貴族に仕える執事のように宿泊客の要望に応える専属の客室係のことだ。
同ホテルではトレーニングを積んだ16人が、本場の本格的なサービスとともに日本流のホスピタリティを融合した内容で展開している。
2フロアに一箇所のバトラーパントリー(バトラーの待機場所)を設置、専属のバトラーがお客の身の回りをフルサービスする。すべての部屋にサービスを呼び出す赤いボタンを設置し、24時間体制でゲストをサポートしている。
バトラーは、荷ほどき、荷造り、ウエルカムドリンクの提供、靴磨きなどに加えて、コンシェルジュサービス全般(観光案内、レストランやチケットの手配など)もこなすなど、滞在中のあらゆるもてなしを担当する。
しかし日本人にとっては、欧米と異なってバトラーには馴染みがなく、すんなり定着させるのは難しい。では、利用を促すためにどのような販促策を提案しているのか。同ホテルの総支配人の石原哲也氏は「バトラーの存在を知っている方は少ない。そのため、どう使いこなすかを、カウンターや部屋のガイドで知らせています。基本的にはウエルカムドリンクをお持ちした際、ちょっとした会話の中で利用していただけるように説明しています。バトラーサービスの実際の価値は泊まって実感してもらうものなので、その後の口コミ効果は大きいですね。ホテルマンは“うまく使われたい”というのが本音です。一言、二言の会話の中でバトラーサービスを認知してもらい、利用する機会を生み出しています」という。
単体ホテルとグループの組み合わせ
日本スターウッド・ホテルの販売促進の考え方は、単体のホテルの独自性と、グループネットワークの活用、という組み合わせで威力を発揮するというもの。そのベースにあるのは、現場が生み出したアイデアをフル活用する販促プランである。
例えば、単体のホテルの例として「シェラトンホテル札幌」のキャンペーン、販促策を挙げてみよう。「東日本大震災チャリティープラン」(3月28日から4月30日)と「復興支援特別宿泊プラン」(4月1日から6月30日)、「スターポイント寄付による義援金募集活動」(6月30日まで)についてはすでに完了。
7月1日現在で実施中なのは、「東日本大震災支援キャンペーン 義援金特別婚礼プラン『メモリー』」(12月31日まで)、「長期滞在プラン」(4月15日より)、「SOHOプラン」(4月11日より)、「Starwoodmeeting.com 特別プロモーション」(5月1日より)、グループ(11 箇所)で展開する「“スターウィッシュ”七夕」(7月1日から月末まで)など。
シェラトンとウェスティンの15のホテルが展開する「SUMMERキャンペーン」(6月中旬から9月上旬まで)は早朝予約割引とレイトチェックイン・朝食付きを選べるプランである。「まず、各ホテルの独自性を重視した販売促進策があります。そして、そこにグループのメリットを生かした販促策を上手く組み合わせるのが、わが社の販促策です。各ホテルで展開した販促策はフィードバックされ、別のホテルの参考になるように情報を共有しています。お客さまにとっての最適化が販促のポイントです。現場で直接かかわるスタッフが日々アイデアを出し合うようになっています」(金枝氏)。
ホテルの販促策は、ハード、ソフトの両面をフル活用することで、費用対効果を上げることができる。顧客が納得するイベント、顧客から支持されるキャンペーンなど、アイデアはすべて現場の中にある。
金枝氏は「顧客の反応を敏感にキャッチするようにしています。状況を見ながら変えることができるし、アイデア次第でいろいろできます。顧客とかかわる現場スタッフから生み出されるアイデア、プランを最も重視しています。もちろん、バトラーサービスもiPadを所持するなど、デジタルツールによる素早い対応を行っています。このように、人間力と新しいツールの組み合わせにも力を入れています」と話す。
大変な時代こそ反転攻勢のチャンスである。日本スターウッド・ホテルは震災前、震災後にかかわらず、全世界のホテルネットワークを生かし、積極的な現場からの発想でサービスを展開する。今後の展開に注目したい。
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